横浜地方裁判所 昭和47年(行ウ)21号 判決 1976年10月13日
原告 株式会社昭和カラー
被告 横浜中税務署長
訴訟代理人 房村精一 篠田学 渡辺信 横山邦男 白井文彦 ほか二名
主文
一 本件訴を却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 <省略>
理由
一 本案前の主張について
(一) 本件裁決が昭和四七年七月一一日付でなされ、右裁決書謄本が同月二七日原告に送達されたこと、その後、国税不服審判所長が右裁決書を訂正し、同年八月六日右裁決書謄本の訂正通知が原告に送達されたこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、本件訴えが同年一一月四日提起されたものであることは、記録上明らかである。
ところで、国税通則法所定の裁決にいわゆる不可変更力を認むべきことはいうまでもないが、裁決の内容の同一性を害しない範囲内において、計算上の誤り、書損じ等の軽微な誤りを訂正することは許されると解すべきが相当である。
本件においてこれをみると、右裁決書謄本の訂正の内容は、その「理由」中の五か所にわたり、原告が昭和四三年六月二四日小原弁護士に交付した金員につき、これを「三〇〇、〇〇〇円」と記載されているのを「三〇、〇〇〇円」と訂正したものであることは、当事者間に争いがなく、<証拠省略>によれば、本件裁決に際しては、担当審判官および参加審判官は、右金員の額につき金三万円と認定してその旨議決したこと、国税不服審判所長は右議決に基づき本件裁決をしたこと、しかし、右裁決書作成の際にこれを金三〇万円と誤記したこと、所得金額については、右交付にかかる金員が金三万円であるとして正しく算出されており、右訂正による変動はないこと、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
右認定事実によれば、本件裁決書の訂正は、単なる誤記の訂正であり、裁決の内容の同一性を害することがない軽微な誤りの訂正であるということができるから、右訂正は適法であるというべきである。
また、右訂正が右のようなものである以上、右訂正が別個独立の行政処分に該当しないことが明らかであるから、右裁決書謄本の訂正通知の送達は、本訴の出訴期間を左右するものではないといわなければならない。
(二)(1) 原告の反論(2)(イ)について
<証拠省略>によれば、原告主張の事実を認めることができる。
しかし、右裁決書謄本の訂正通知と題する書面(<証拠省略>)とすでに送達を受けていた裁決書謄本(<証拠省略>)とを照合すれば、右訂正通知が新たな裁決書謄本ではなく、すでに送達を受けていた裁決書謄本の単なる訂正の通知であることは、普通人にとつても容易にこれを認識し得るところである。のみならず、右訂正通知がされた経緯についてみると、<証拠省略>によれば、川手国税副審判官は、右裁決書謄本を原告に送達後、原告代表者に電話で右裁決書謄本に前記誤記があつた旨を連絡してその了解を求めたところ、原告代表者に口頭では困るから書面で訂正してほしい旨要求されたので、書面で右の訂正通知をしたものであることが認められるから、原告が右訂正通知を新たな裁決書謄本の送達であると誤信したことにつき責はないとする旨の原告の主張は失当であつて採用できない。
(2) 原告の反論(2)(ロ)について
原告主張の出訴期間の教示の事実は、<証拠省略>中には、これに沿う部分があるが、<証拠省略>と対比すれば、たやすくこれを措信できず、他にこれを認めるに足りる証拠はないから原告のこの点に関する主張も失当であつて採用できない。
してみると、本件訴は、前記のとおり昭和四七年一一月四日に提起されたものであるところ、右は、原告が前記裁決書謄本の送達を受け、これを知つた日である同年七月二七日から三か月を経過して後提起されたものであるから、その出訴期間を徒過した不適法なものというべきである。
二 よつて、原告の本件訴は不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 加藤廣國 龍前三郎 川勝隆之)
別紙<省略>